26日に運命のドラフト会議が行われる。悲喜こもごも…数々のドラマを生んできた同会議だが、過去の名場面を「ドラフト回顧録」と題し、当時のドラフト翌日付の紙面から振り返る。
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<05年10月4日付、日刊スポーツ紙面掲載>
高校生を対象としたプロ野球新人選択会議(ドラフト会議)が3日、都内のホテルで開催された。1巡目で3年ぶりに抽選が復活したが、交渉権獲得球団を誤るハプニングが続いた。今ドラフトの目玉の辻内崇伸投手(大阪桐蔭)の交渉権を巨人が確定させたが、競合したオリックスと発表され、台湾人留学生の陽仲寿内野手(福岡第一)は、日本ハムが権利を得ながら、一度、ソフトバンクと発表された。抽選した監督らの勘違いもあったが、日本プロ野球組織(NPB)は不手際と謝罪。球界改革の新ドラフトが迷走した。
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NPBが大失態で、抽選復活初年度に大混乱ドラマを演出してしまった。広島と楽天が競合した片山の抽選が終わり、巨人とオリックスによる辻内の抽選が始まったときにぶざまなミスの連鎖が始まった。
巨人堀内監督、オリックス中村GMの順で抽選箱から封筒を取り出し開封。ガッツポーズの中村GMを見ながら、堀内監督は、くじを確認することもせず、すごすごと席に戻った。
辻内は待機していた母校・大阪桐蔭で、早々に記者会見し「素晴らしい球団に取ってもらってうれしい」とオリックス入団を表明し、花束まで受け、屋外で写真撮影に臨もうとしていた。
会場では、日本ハムとソフトバンクが競合した陽の抽選に移り、ヒルマン監督、王監督の順でくじを引き、王監督が獲得の喜びを体で表した。相思相愛といわれるソフトバンク陽の誕生か、と会場は沸いた。テレビ中継では、陽が感激で涙し、ハンカチで目を覆うシーンも流された。
“異変”は直後に起きた。会場に日本ハムが陽の交渉権を獲得、とのアナウンスが流れた。それを聞いた王監督が、右手で抽選用紙を掲げて、当たったのはこちらだ、と言わんばかりに、アピールした。それを受けてか「交渉権はソフトバンク」との訂正のアナウンスが流れたのだ。
会場は一気にざわめき始めた。辻内を外したと思い込んでいた堀内監督が、同じく陽を外したと思っていた日本ハム高田GMと、抽選用紙を照合。「同じだな」と見せ合っていたが、実は当たりだった。高田GMは思わず「当たってるやん」と叫んだ。同時期に、NPBも確認を行い、いずれも錯誤と判明、再訂正をアナウンスする二転三転のドタバタ劇となった。
堀内監督は「中村GMがガッツポーズしているんだから外れたんだなと。でも、おかしいな。オレのに『交渉権確定』って書いてあるけど、外れかなって。(くじは)初めてのことだから分からないんだよ」と、興奮気味に振り返った。一方、中村GMは「堀内さんも何も言わなかったし、僕の方かな、と。過去にくじを引いた時は(折っていない紙に)何も書いてないか、交渉権獲得の文字があるか、どちらかだったと思う」と話した。中村GMは紙に何らかの判があれば「当たり」と認識していた。当たりくじにはNPBの判とともに「交渉権確定」が印刷されていたが、同GMは「事前説明はなかった。勘違いだし、仕方ないが…」と困惑気味に話した。
一方、抽選が通算5度目の王監督は「のどから手が出るほど欲しい選手だったので(当たりと)錯覚してしまった」と話した。ヒルマン監督は「何か書いてあれば当たりだって言われていたんだけど…。王監督が喜んでいたので外れたのかな」と語り、日本語が読めず半信半疑で着席した心境を振り返った。
辻内、陽ともに選ばれた球団で頑張ると話した。高校球児が「人生」を託したくじで“悲劇”が起きなかったことが救いだった。
〇…辻内は、最初の記者会見中に、“異変”に気付いたという。会見中でテレビ中継のモニター音声が切られていたため、誰も間違いに気付かなかったが、辻内はテレビの「巨人辻内」のテロップを発見。「(テレビが)間違っているな」と思っていたという。15分後に、この日2度目の会見に臨んだ辻内は「すごく驚いた。オリックスですごい投手になろう、と心に決めたんで。急に変わって、切り替えが難しかった。僕(の人生)はハプニングが多い」と笑っていた。
<過去のドラフト主なハプニング>
◆抽選順間違う 97年2位で新沼捕手(仙台育英)に日本ハム、横浜、ヤクルトが競合。抽選で横浜が交渉権を獲得したが、くじ引きの順番を間違えて進行したため紛糾。ヤクルトと日本ハムが抽選やり直しを求めた。約30分の中断後、抽選は有効として決着した。
◆指名無効 98年に西武が5位で後藤投手(大和銀行)を指名しようとしたが、大和銀行から水田投手が先にダイエーから指名されていた。「同一年に同一社会人チームから指名できる投手は1人」の規定に抵触し、西武の指名は無効に。
辻内が幼い頃からの夢をかなえた。オリックスかと思いきや、急転の巨人入り。「小さい頃から巨人ファンだったので、うれしい。入団の意思? はい、あります!」。会場内で見ていた同級生がガッツポーズで祝福すると、辻内も右手を突き上げた。
最速156キロの速球で甲子園をわかせたが、視線は次のステージにある。「自分にはストレートしかない。全力投球を見せたい。160キロは出したい」。日本人あるいは国内左腕の160キロ超えは、まだいない。原動力となるのが、巨人への強い思いだ。「小さい頃から尊敬している投手がいる。一緒に練習できる。カーブを教えてほしい」。同じ左腕の工藤にあこがれ、高校でも連続写真を何度も見て投球フォームを研究した。入団後、真っ先に弟子入りする。22日から始まる国体終了後に球団の指名あいさつを受け、巨人入りへ第1歩を踏み出す。
〇…巨人渡辺球団会長も、辻内の交渉権獲得を喜んだ。都内で会食後、今季限りで退任する堀内監督がくじを引き当てたことに「よかったね。最大のお土産だよ」と話した。同席した滝鼻オーナーも「最初はがっくりしていて仕方ないと思ったけど、何はともあれ良かった」と安堵(あんど)の表情だった。また同オーナーは退団する清原について「どういう場面をつくるか分からないけど、彼には敬意を表するよ」と何らかのセレモニーを行いたい意向を示した。
◆日本ハム1巡目陽 わずか14分の間に人生を左右する「進路」が変わった。午後2時2分。平松監督らとテレビを見入った。同15分。王監督が右手を高々と上げた瞬間、表情は一変し、感極まって涙を流すシーンも。「兄(台湾代表の耀勲)とソフトバンクで一緒に野球をやれると思うとうれしくて」と笑顔で話した。だが喜びもつかの間。14分後、報道陣から抽選の手違いを聞かされ、会見場から一時退席した。「(最初は)何でこんなことになったのだろうと思ったけど、プロ野球選手になりたいという気持ちは変わらなかった」。それでも会見後には、2つ年上の兄耀華(20)から「気持ちを切り替えて頑張れ」という激励を受けていた。
<小池会長くじ確認せず>
コミッショナー事務局は、不手際に謝罪するばかりだった。根来コミッショナーは「ぬか喜びした選手がいるかもしれないし、申し訳ない。いずれにせよ弁解の余地はない」と語った。長谷川事務局長は大阪桐蔭、福岡第一の両校へ電話をかけて謝罪。文書でもあらためて謝罪する。
いずれのくじにもNPB印が押され、当たりくじにだけ「交渉権確定」の文字が記される方法は「用紙も含め、10年以上前から変わらない」(同事務局)。すでに定着していることもあり、事前の確認をしていなかった。また、本来は議長を務めるパ・リーグ小池会長が抽選箱前で、開封したくじを確認しなければならない。小池会長はオリックス中村GMから開封された「外れくじ」を受け取ったにもかかわらず、同GMの勘違いに気付かぬ大失態を演じてしまった。同会長は「確認しなければいけなかったが、みんな喜んで席に戻ってしまったから」と力なく語った。
平田広報部長は「確認作業も含めて明らかな不手際です。選手に申し訳ないし、来年以降に向けてきちんと考えます」と話した。
〇…大阪桐蔭・辻内、福岡第一・陽の第1巡目指名を巡る混乱で、NPB側から日本高野連に謝罪電話が入った。「手違いで迷惑をかけてしまった」と、両校校長にも謝罪することを伝えた。初の高校生分離ドラフトについて高野連は「高校生の進路を確定する上でプロ野球志望者が早く決まるのは現場から望ましいという声がある」などの理由で歓迎。一方で「NPBの準備が整えばさらにドラフト開催時期を早めることを提案したい。来年の国体は9月30日からなので、9月20日前後が原案」と早期実施を希望した。
※記録と表記などは当時のもの
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