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Thursday, June 30, 2022

コロナ保険が感染拡大で“実質破たん”……行政処分の事例から考えたい「ミニ保険不要論」 - ITmedia ビジネスオンライン

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 保険とテクノロジーを掛け合わせた「インシュアテック」を推進するjustInCaseが、6月27日付で業務改善命令を受けることとなった。

 同社は2020年5月から、新型コロナ感染時に10万円の一時金を支払う「コロナ助け合い保険(シンプル医療保険)」をリリースしていた。しかし、予想を超える感染拡大状況となった結果、保険金の支払い予測が嵩んだことで、今年の4月6日から保険金額を10分の1に減額する旨を公表したのである。

保険テックのjustInCaseが業務改善命令を受けた

 コロナ助け合い保険は、月々510円の保険料から利用ができる、いわゆる「ミニ保険」と呼ばれるカテゴリだ。保険金が10万円であるとすると、加入者が平均で16.3年に1回コロナに感染するペースで受取保険料と支払保険金の額がトントンとなる計算だ。しかし保険金を10分の1に減額するということは、加入者がコロナに感染する確率が実際には大幅に高かった。平均して1.6年に1回程度になるとトントンになるという大幅な予測のズレがあったことになる。

 このように、未知の病のように統計的な検証が不十分な保険商品について、状況の激変に伴い保険金が減額されるというものがある。また、ミニ保険は一般的に保険金額も貯蓄で十分に賄えるレベルのものであるため、一部では「ミニ保険不要論」なども噴出している状況だ。

justInCaseのコロナ助け合い保険は、現在新規申し込みを停止している

 では、ミニ保険不要論とはどのようなものか。一般的な保険と合わせて検討していきたい。

保険は“宝くじ”と同じか

 まず、ミニ保険不要論を検討する前に、「宝くじと保険は似ている」ということを確認しておこう。

 宝くじは「バカにかかる税金」と呼ばれることがある。これは、宝くじの還元率が45%と、公営競技などと比較して圧倒的に低い期待値に設定されていることに由来する。

 この還元率によれば、宝くじを1枚購入するたびに平均で55%損する計算になる。1枚300円のくじならば、購入するたびに165円を国庫に払っているということだ。宝くじが「バカにかかる税金」と呼ばれるのは、そのようなマイナスサムゲームにお金を投じることに経済的合理性がないからということだろう。

 そして、同じように「期待値がマイナス」な金融商品といえば「保険」もそうだ。

 私たちが保険会社に支払っている保険料の内訳は2種類ある。1つは保険金や満期・解約時の払い戻しに使われる「純保険料、もう1つが保険会社の営業員や事業経費に充てられる「付加保険料」だ。

一般的に保険料の内訳は2つに分けられる(画像は金融庁資料より)。なお付加保険料率がどれだけなのかは、ほとんどの保険会社が公開していない

 付加保険料は保険金の支払いには使われない。つまり、保険料の総額よりも保険金の額が小さくなるため、保険商品の期待値はマイナスとなる。ただし、そうであるからといって全ての保険商品が不要というわけではない。特に対人・対物賠償の場面であったり、本人の病気や死亡といったケースでは、保険に加入していないがために一度の出来事で家計やライフプランが破綻してしまうケースがある。

 貯蓄では到底まかなえない、数千万円や数億円のような規模の事故に備えて、一定のプレミアム(=付加保険料)を支払ってカバーすることに、保険の合理性があるといえる。

 1等賞金が生涯年収を超える金額の宝くじが人気を博するのも、万が一当選すれば、小さな元手で一生分の稼ぎが入り、労働や不安などから解放されるからだ。期待値がマイナスでも試したくなる気持ちは分かるし、現に筆者もたまに宝くじを少額購入することもある。

 さまざまな賞金帯の宝くじをリリースしている「totoスポーツくじ」の売り上げデータは、その性質を如実に表している。

 一等賞金が最大6億円、12億円の「BIG」や「MEGA BIG」の売上金がそれぞれ492億円、253億円であるのに対し、一等当せん金額が1000万円の「BIG1000」や100万円の「mini BIG」はそれぞれ79億円、60億円と5分の1程度しか売り上げていない。

 つまり、消費者は宝くじの期待値がマイナスであることは認識していながらも、万が一1等に当せんした場合、人生が一変する可能性が高ければプレミアムを支払ってでもくじを購入するという意思決定を下している。

 1等当せん金額が貯蓄でも十分まかなえる金額の場合、期待値がマイナスの宝くじではなく、純粋に貯蓄した方が早くその金額を用意できる。期待値(還元率)が50%であれば、くじを買うよりも貯金のほうが2倍ほど早くその金額に到達できるのだ。

 これを高額な生命保険や対人賠償責任保険に当てはめると、期待値がマイナスであっても私たちがこれらの保険に加入する理由が分かる。万が一保険事故が発生した場合に、人生がマイナス方向に一変するという事態に備えて、プレミアムを支払うということになる。

「ミニ保険」に加入するなら貯金すべき

 このように見ていくと、いよいよ掛け金が小さい代わりに保険金額も安い「ワンコイン保険」や「ミニ保険」に加入する意味はないということになる。

 なぜなら、保険金額が非常に安いミニ保険の場合は、純粋に貯蓄した方が「早く保険金額相当の金銭を用意できる」し、「そのお金をさまざまなリスクの備えに使える」からだ。

 一般にミニ保険の類は「掛け捨て型」と呼ばれ、一定期間内に保険事故が発生しなかった場合、その保険料は戻ってこないケースがほとんどである。つまり、コロナ感染に備えたミニ保険に加入して、保障の対象外となる要因で入院した場合、掛け金が無駄になるだけではなく、入院費用について別途工面しなければならない。

 一方で、入院に備えた「貯金」であれば、コロナで入院しても、風邪をひいて入院しても、その貯金を充てれば良いし、入院しなかった場合は別の用途に貯金を使えばいい。

 冒頭のコロナ助け合い保険では、30歳から34歳の女性が最も保険料が高い月額960円であった。保険金額が1万円であるとすると、11カ月以内にコロナに感染し、自宅療養ないしは入院にならなければ加入者は損してしまうことになる。

 11カ月以内にコロナに感染するような環境に身を置いていなければ、ミニ保険に加入せずに、毎月同じ額だけ貯蓄しておくことが合理的だろう。

リスクの優先順位を見逃さないことが重要

 ちなみに、「ミニ保険」のようなものはショッピングの場面でもたびたび目にする。

 商品の購入代金に上乗せして一定額を支払ったり、月額数百円を支払うことで故障時は新品に交換してくれたり、修理が無料になるようなプランを目にしたことはないだろうか。これも、ショップ側としてはその保険的なプランを用意することで利益率を向上させているわけであるから、利用側の期待値としてはマイナスとなる。

 人生には数多のリスクがつきものだ。仮にそのリスク全てを保険で賄おうとすれば、たちまち月収の何倍もの保険料を支払わなければならなくなる。

 重要なのはリスクの優先順位を見逃さないことだ。人生が激変してしまうかという点と、それについて貯蓄では到底賄えないレベルの十分な保険金を受け取れるかを基準に、保険と向き合うべきだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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